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デザイン探検家の記録

【書評】最後の冒険家

最後の冒険家

最後の冒険家

野外業界の情報通として一部の業界人の中では
有名な藤本氏からの推薦を受けて課題図書としてしばらくお借りしていた。
藤本氏「思考の7割と収入の3割を旅に注ぐ凡人の日々」と言うブログを書いておられる。
以前は「思考の7割と収入の3割を旅に注ぐ旅人の日々」というブログだった。
いつの間にか「旅人」から「凡人」降格してしまわれたが、
情報通としての敏腕ぶりは衰えることを知らない。


それで本書の内容は、
神田道夫氏による熱気球による太平洋横断の記録を
第一回目の遠征のときに同行した石川直樹氏の目から描いた作品である。


神田氏の行動の記録を熱気球以前の筏下りにまで遡り、
氏の冒険に対する好奇心や行動力を示している。
気球と出会い、あっという間に冒険飛行にのめりこみ
富士山越えにはじまり長時間飛行記録や高度記録、数々の記録を打ち立てた
神田氏の行動力を淡々と描いている。


氏を語るときにこの行動力は外せない言葉だ。
気球を始めてから、冒険飛行に乗り出すまで、先輩を追い越し、
ほとんど迷うことなく一直線に進んでいる。


神田氏による太平洋横断に至る経緯やプロジェクト全体の人の関わり、機材、
冒険家として、また人間、父や夫として神田氏の性格が、
石川氏の目を通じてよく描かれている。
直感で冒険を成し遂げていくタイプで、
今の時代には稀な人だったのではないかと思う。


この作品は開高健ノンフィクション賞を受賞している。
石川氏はプロジェクトに最も近くで関った一人の青年として、冒険にかける仲間として、
確かにこの記録をまとめるには適任だったのだと読後に思った。
プロジェクト全体を客観的に淡々と追いながら、
最終的に太平洋上で行方不明になってしまったあたりでは、
石川氏の神田氏に対する尊敬の念や愛情のようなものが伝わってきて、
押し殺していた感情がいっきにあふれるが如く感動的ですらあった。


私は冒険家である安東氏の紹介でこのプロジェクトに気球製作で関わっていた。
スターライト号の名前や色の由来は制作に携わりながら知らなかったが
この本で知ることが出来た。
そのエピソードだけでも神田氏への愛おしさが湧いてくる。


工学士でもある安東氏によると、
このプロジェクトの失敗の原因は気球の構造や強度の問題もあるという。
計算で出せる問題点に対し、なんら対策を打たなかったとスターライト号に対して語っていた。
気球を操縦することと、設計することは違う。
操縦に関しては超一流のパイロットであったと記録が証明している。


このプロジェクトの一部に関りながら、全体を知らなかった私には
プロジェクト全体を俯瞰する良い資料になった。
安東氏をはじめ関った人々の意見を聞く上での分かりやすいフォーマットになったと思う。

あのプロジェクトが成功していたら。
「たら、れば」は命をかけての冒険には全く無意味だ。
冒険は生きてこそだ。


横断できる可能性は有っただろうが、
到達できない可能性もあった。
リスクを極限まで減らすことが必要だったのかもしれない。
機材にしても、メンバーにしても。
リスクを残したまま、突っ込んでしまった感は否めない。


冒険には危険を犯し、行動していくことで、達成できる面がある。
むしろ、挑戦する行動力がないと冒険は成し得ないだろう。
しかし、行動力だけでは命をかけたギャンブルになってしまう。
リスクを最小限にし、成功する可能性を最大限にするための準備が必要だ。
この二つのどちらかが欠けた時、冒険は運まかせになってしまうのだ。
何かに兆戦するときには、肝に銘じたい重要な二つのエレメントだ。


このプロジェクトを通じ「冒険とは何か?」「生きることとは何か?」
と言うことについて考えざるを得なかった。
この本はわだかまっていた部分を分かりやすく解きほぐしてくれた。