「未来はもう始まっている」
この言葉の主は野宿や山などを時々ご一緒させて頂いている、
植村直己賞も受賞したことのある冒険家の安東浩正さん。
安東さんの著書にサインをお願いした際、添えてくれた言葉。
未来は「今この一瞬」の積み重ねの上にあることにハッと気付かせてくれる。
2010年、世界は新年を迎えた。
新聞やテレビなどのマスコミはいっせいに一年の動向を予測し、
世界の未来を論じ始める。
私達プロダクトデザイナーは日々半年から二年先の製品をデザインしている。
常に製品が売り出される時の、ユーザーの価値観や世間の動向を意識しながら。
そしてユーザーが製品を使う時のことを考えながら、
製品本体やキー、ディスプレーの形状など製品の細部を
0.1mmの精度、時としてさらに細かくデザインしていく。
新製品には従来無かった機能などが盛り込まれており、
製品を使うユーザーは新しいライフスタイルがスタートする。
例えば、今では当たり前となった携帯電話のカメラ機能。
これも10年前には存在しなかったし、その必要性も感じられなかった。
しかし実際に携帯の機能として普及すると、
様々な写真をリアルタイムで送信するなど
ユーザー自身が新しい使い方を見つけだした。
文字と画像、そしてリアルタイム性が複合的に組み合わさり、
従来無かった新しい魅力を持つコミュニケーション手段に成長している。
電話とメールにビジュアル情報を付け加え、
より多彩なモバイルコミュニケーションを実現し、
今では携帯電話に無くてはならない機能の一つである。
おそらく開発者はそこまで生活のなかで使われるとは
思っていなかったのではないだろうか。
開発者の意図を超え、ユーザーが道具を使いこなす。
そして一つの生活様式を作る。
売れる売れないを通り越し、ここまで来ると製品の開発者としては本望だろう。
そして未来の生活は昨日よりも一歩、明るく、快適になっていると私は信じる。
私達プロダクトデザイナーが作ったものが、
数ヶ月から数年先の未来の人々に使われ生活に浸透していく。
おおげさに言うと私達が日々行っている、
「今のこの瞬間」の仕事は未来の世界中数万という人々の生活を作る。
「未来はもう始まっている」
私はプロダクトデザイナーと言う職業人の立場から、
人々の未来を作ろうと新春に誓う。